僕の両親はコンビニ経営をしています。
誰でも一度は入店したことのある有名チェーン店です。
開店して10年以上。
一度も閉店することなく僕が小学生の頃から営業してきました。
「いらっしゃいませー」
「ポイントカードはお持ちでしょうか?」
「お弁当は温めますか?」
という作業を何万回と繰り返し、僕を育ててくれたのです。
バイトの人手不足に悲鳴を上げるコンビニオーナーがいるのはよく聞く話。
「このままでは私が24時間になってしまう・・・。」
とセブンイレブンのオーナーがバイト募集広告を出していると話題になったこともありましたね。
うちのお店も例外ではなく、僕が高校を卒業するとタイミングに突如として深刻な人手不足に陥りました。
ある時父親が僕にこう言うのです。
「ちょっと仕事を手伝ってくれんか?人でが足りずに困っちょるんじゃ。」
話を聞いてみるとかなり深刻な人員不足なようで、ベテランのクルーさん(バイトスタッフ)が3人一気に辞めてしまうとのこと。
両親は休みも取れず、毎日朝から夜までは母親が。
深夜を父親が担当するという形で毎日12時間以上働くような有様でした。
父親は自分の弱みを一切見せないような性格です。
何か問題が起こっても、人に頼らず自分で解決するタイプです。
そのプライドの高い父がわざわざ僕に仕事の話を振ってくるなんて、相当追い込まれている証拠です。
本音を書けば大学に行って遊びたい気持ちが強く、両親の経営するコンビニで一緒に働くなんて嫌でした。
「なんでわざわざ親の仕事を手伝わなければならないのか?」
「面倒くさい。まっぴらごめんだ。」
けれどお店の経営難に苦しむ両親を見殺しにすることもできず…。
両親が苦しんで稼いだお金でキャンパスライフをエンジョイするなんてそんな真似はできない…。
男として人肌脱ぐしかないか…。
1年くらいなら手伝ってもいいだろう…。
ということで進学を先送りにし、コンビニ家業を手伝うことになったのです。
僕は初めて社会人として世の中を知ることになります。
コンビニの仕事は大変
僕は働き始めたばかりの頃、
「なんでこんな底辺がやるような仕事をしないといけないんだろう?」
と大変失礼なことを考えていたりもしました。
「仕事は言っとくけど大変だからね」
と聞かされてはいましたが、やってみるまでイマイチ実感は持てませんでした。
普段お客さんとして近所のコンビニを利用するときも、お客さん相手にロボットのように振る舞うコンビニやファミレスの仕事なんてやりたくないと考えていたくらいです。
「あんな仕事誰でもできるだろう。」と舐めきっていました。
ところがそれは大きな間違いです。
僕は働きだしてすぐ社会の洗礼を受けることになります。
コンビニの仕事というのはあなたが思う以上にずっとハードです。
郵便局など役所の仕事と比べると、こっちの方が明らかに高度なことをやっています。
- 接客
- レジ業務
- 商品の品出し・陳列
- 商品の発注
- 店内調理
- チケットの販売
- 公共料金支払いの受付
- タバコの銘柄暗記
- 宅配便の受付
- コピー機の管理
- 清掃
- キャンペーン用の垂れ幕準備・後片付け
- POPの作成と取り外し
- 商品の賞味期限チェック
あなたがよく入るあのちっぽけなお店の中には1500種類以上の商品が置かれています。
レジも簡単そうに見えて複雑怪奇。
タバコの銘柄だけでもざっと200種類以上はあります。
また最近はメルカリやLineといったITサービスの影響もあって、過剰なサービスが日々新しく生まれてきています。
メルカリ商品の発送や受付など新しい仕事もバンバン追加されるので、おそらくオーナーですら仕事のすべてを完全に把握していることは難しいのです。
お客さんにとっては便利になっていくコンビニエンスストアですが、働く側からすると悲鳴の1つも上げたくなるくらいです。
「これ以上余計なサービスを増やすな!時給上げろ!」と(笑)
仕事といっても、ただぼ~っとレジで立っていればいいわけではありません。
掃除・検品・品出し・惣菜調理・現金収納・廃棄・発注・接客・ゴミ捨て・・・
次々に迫ってくる仕事を終わらせる”マルチタスク能力”。
200種類を超すタバコの銘柄や新手の支払い方法を覚える”記憶力”。
長時間の立ち仕事をこなしながら、ゴルフクラブの持ち運びも行う”強靭な肉体”。
目にも止まらぬ動きでパッパパッパと商品をさばく”レジ打ちの速さ”。
お客さんの買う商品を傷付けぬよう赤ん坊を抱くように扱う”繊細さ”。
打ちミスや箸の入れ忘れをしないように気を付ける”注意力”
風のような速さで売り場の商品を端から端までザーッと整えていく”俊敏性”。
攻撃的で怒鳴り散らすようなクレーマーが来ても心を無にする”精神力”。
未成年の飲酒喫煙を防ぐための”観察眼”。
「コンビニのバイトは楽だ」なんて言ってる人はたぶん真面目に仕事してません。
レジの内側は大変です。
店にもよって忙しさも違いますが、個人的には作業量的に時給2000円くらいもらってもいい仕事だと思っています。
始めた当初は頭で考えていることが体に追いついていかず、自分の無能さを思い知らされました。
メモを見ながら必死で作業したり、日汗をかきながらレジを打ったり。
仕事を間違えてお客さんにボロクソ怒られたこともたくさんあります。
始めて3日で嫌になり、1か月もつかな・・・と思いましたが、人間やればできるもの。
慣れてくると目にもとまらぬ速さで仕事をこなせるようになります。
タバコの銘柄をすべて完璧に記憶し、常連のお客さん1人1人が何を買うのか覚えるまでに至ります。
今でも生活費を稼ぐためにコンビニバイトはやっています。
始めたばかりの頃は苦痛だった仕事も今では条件反射的にこなせるレベルになりました。
動きはプロ級です。
コンビニオーナーは過酷
セブンイレブンの24時間営業の見直しだとか言われている昨今、コンビニオーナーは悲惨だといわれています。
すぐそばで両親の姿を見ていた僕としても、確かにその通りだなと思います。
このハードな仕事を10年以上も続けるコンビニオーナーは本当にすごいのです。
- 人手がいなければ1日12時間以上労働
- 土日や祝日休みは無い
- バイトが欠勤したりバックレたりすれば、深夜であろうとお店に出勤
- どんなにイラつくお客さんが来ても感情を一切表に出さない
- ゼロになることのない万引きへの警戒と防犯対策
- バイト募集に広告を打ってもなかなか集まらない人で
- お弁当やおにぎりといった廃棄の負担
店長やオーナーが休むと現場が回らなくなるので、風をひいた体にムチ打って出勤は当たり前です。
雇用されているわけではないので、長時間労働しても労働基準法対象外。
残業代ももちろん出ません。
儲かっているお店の周辺には、本部が新しいお店を次々と出店してきます。
客足が減って下がる売上。
ヘタに閉店しようとすれば違約金1千万円くらい取られます。
公共料金の支払いや電子決済など、世の中が変わればコンビニの負担はバンバン増やされます。
政治家は「最低賃金引き上げます!」と声高らかに言いますが、雇う側としてはたまったものではありません。
仕事でクタクタに疲れて帰ってきて、死んだように眠っている姿を見てきました。
僕と両親との間柄はどうだったかというと、それなりに良い方ではありました。
たまには怒鳴り合いの喧嘩することもあったし、ムカついて生意気な態度を取ったこともあります。
バカなことをしでかして父親からゲンコツを入れられたこともあります。
「うざい。」
「何でこんな大人が自分の親何だろう?」
こう思う若者は多いのかもしれません。
僕も親への尊敬の気持ちなんてイマイチピンとこなかったけど、こうした仕事を実際に体感して初めて学びました。
「感謝の心」というものを。
母は仕事で疲れていても夕食をスーパーできちんと買って作ってくれました。
父もたまの休みの日となればドライブに連れて行ってくれ、部屋の家具やゲームだって買ってくれました。
小さいときにはウルトラマンの人形をよくおもちゃ屋で買ってもらっていたし、スイミングスクールの費用だって出してくれました。
そんなに裕福な家庭というわけでもないのに。
小学校の宿題でよく書かされる「お父さんお母さんへのありがとう」みたいな中途半端なものではありません。
親の仕事の苦労を知って初めて心の底から感謝することができたのです。
「ありがとうございます」と。
コンビニの仕事をやってみた感想
今まで軽んずるような目で見ていた自分がバカだったと思い知りました。
コンビニで働く店員さんたちはすごいです。
お客さんが思うよりもずーっとスペックは高く、いろいろなことができます。
人生で初めて、働いてお金を稼ぐことの大変さを知りました。
僕は地元が田舎の方なので時給も700円代とかが当たり前です。
700円を稼ぐために何十回とレジ打って、お客さん相手に「いらっしゃいませ」と挨拶をします。
揚げ物を作って陳列したり、商品の検品をしたりしなければなりません。
これを朝から晩まで何日も繰り返すことで、やっと手元に生活できるくらいのお金が入ってきます。
「大人になったら働かなきゃいけないって嫌だなぁ」
と母親に言うと、
「どんな仕事に就いてもそんな感じだよ。特に就職したら」
と返されました。
大人って大変なんだなぁと思いつつも同時に、働いてお金を稼ぐことへの強い疑問も生まれました。
「大学を卒業したら一生こんなことをおじいちゃんになるまで続ける生活を送ることになるの・・・?」
と。
大阪に移り住むことに
そんなこんなで、どうにか1年間働いているとコンビニの人手もどうにか増えてきました。
僕も親元を離れて旅立つときです。
英語が好きだったこともあって、僕は語学系の専門学校に進むことに決めました。
当初は私大文系に進学しようと思っていたのですが、家庭の経済的状況も考慮に入れるとベストな選択肢とは思えませんでした。
僕の頭がもっと良ければ、4年制の国立大学も狙えたでしょうが、それはもはや叶わぬ夢。
僕は英語の原書を読んだり、外国人とコミュニケーションを取ることが好きです。
なので専門学校で実用的な英語スキルを身に着けたら、さっさと就職してしまおう。
両親だってここまで僕を育ててくれて大変だったのだから、早く一人前の大人になって自立しよう。
迷惑はかけたくない。
大阪を選んだ理由は、主に3つ。
- 退屈な田舎の生活に飽き飽きしていたこと
- 母方の祖父母がいたこと
そして3つ目はまた次の記事で書いていこうと思います。
コメントを残す